作品を看取る
制作にかかわるメモ書き
「いなずみさんの絵って、見てるとほっこりします。」
私の絵を見てそう言ってくれる人がいる。有難いなと思う反面、どうしてそんな感想をいただけるのか不思議な気持ちになる。実際のところ、現場では一心不乱に絵を描いていて、「ほっこり」した気持ちとは程遠いからだ。
昔のスケッチブックを眺めていた時、船を描く自画像を見つけた。
一見すると絵本のようなほのぼのタッチだが騙されてはいけない。「好きだよ、大好きだよ」と船に異様なまでの愛情を注ぎながらスケッチする女の姿はホラーそのものである。
できる限り穏やかに心静かに過ごしたいと願う生活の隙間隙間に、こういった儀式めいた狂気の時間があり、制作物が生まれていく。
色や形に心血を注ぎ込んで疲弊した結果、誰かの心を癒すものが生まれるのだとすれば、それは多分、描き手の熱量があなたへ伝わったのかもしれない。自分の生み出したものが誰かにとって良い方向に作用しているのなら、これ以上嬉しいことはない。